大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和61年(オ)31号 判決 1988年7月19日

上告人

有限会社三栄交易

右代表者代表取締役

高橋榮

上告人

高橋榮

右両名訴訟代理人弁護士

松井宣

小川修

沼波義郎

半澤力

被上告人

宮川商工株式会社

右代表者代表取締役

安河内巖

被上告人

旧商号株式会社清和工業製作所株式会社セイワ

右代表者代表取締役

田辺茂

右両名訴訟代理人弁護士

小池恒明

松本義信

主文

一  昭和六一年(オ)第三〇号事件につき、昭和五九年三月一六日言渡しの原判決中上告人有限会社三栄交易敗訴部分、及び昭和六一年(オ)第三一号事件につき、昭和六〇年九月三〇日言渡しの原追加判決をいずれも破棄する。

二  前項の部分につき、本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

三  昭和六一年(オ)第三〇号事件につき、上告人高橋榮の上告を棄却する。

四  前項の部分に関する上告費用は、上告人高橋榮の負担とする。

理由

第一昭和六一年(オ)第三〇号事件

一上告代理人松井宣、同小川修、同沼波義郎、同半澤力の上告理由一について

上告人らの第一次請求たる不正競争防止法に基づく請求は、上告人高橋の設立した上告人有限会社三栄交易(以下「上告会社」という。)が昭和五三年六月以降「アースベルト」なる商標(以下「原告商標」という。)を使用して製造販売している原判決添付の別紙第一目録記載の自動車接地具(以下「原告製品」という。)は、爆発的売行きを示し、昭和五四年三月までに約一五万本販売され、更にその製造販売数は増加の一途をたどっており、新聞、雑誌、ラジオ、テレビ等による広告宣伝とあいまって、原告製品の形態自体及び原告商標は、昭和五四年三月には、上告会社の商品たることを示す表示として仙台市を中心に全国的に知られるようになり、同法一条一項一号にいう「本法施行ノ地域内ニ於テ広ク認識セラルル」(以下「周知」又は「周知性」という。)商品表示となっていたところ、被上告人宮川商工株式会社(以下「被上告人宮川商工」という。)は、昭和五三年八月ころに原告製品の独占的販売権を得たい旨上告会社に申し入れたものの、四六〇〇本程度を仕入れたのみで、その後の継続的取引を断られたことから、昭和五四年三月ころ、被上告人株式会社セイワ(旧商号・株式会社清和工業製作所)に依頼して原判決添付の別紙第二目録ないし第五目録記載の自動車接地具(以下「被告製品」と総称する。)を製造し、これに「エンドレスアースベルト」なる商標(以下「被告商標」という。)を使用してその販売を開始したが、被告製品の形態は原告製品の形態と酷似しており、また、被告製品に使用されている被告商標は原告製品に使用されている原告商標と類似しているため、被告製品の販売自体並びに被告商標の使用及びこれを使用した被告製品の販売(同法一条一項一号にいう、商品表示「ヲ使用シ又ハ之ヲ使用シタル商品ヲ販売」することを、以下「使用等」という。)は、被告製品を原告製品と誤認混同させるものであると主張して、被上告人らに対し、被告製品の製造販売及び「アースベルト」なる名称の使用等の差止め、並びに被上告人らが昭和五四年四月から昭和五六年一月までの間被告商標を使用して被告製品を一九万八六一〇本製造販売したことによって被った損害八〇〇〇万円の賠償及び新聞紙上への謝罪広告の掲載を請求する、というものである。

原判決は、(1) 上告人高橋は、昭和五三年二月ころ原告製品を考案して、同年四月末ころ製品化し、同年六月一日上告会社を設立し、これを通じて原告製品の販売を開始した、(2) 上告会社は、全国に販売されている自動車専門雑誌二誌に広告を掲載して通信販売の方法をとる一方、地元の新聞やラジオにより広告宣伝をし、同年八月ころ、訴外株式会社双見商会と取引を開始し、同社に卸売りされた原告製品は主に東北六県の出光関係のガソリンスタンドで小売りされ、また、上告会社は、同年一二月ころ東京の株式会社向島自動車用品製作所外一社とも取引を開始し、更に右双見商会を介して他の数社とも取引を行うようになった、(3) 原告製品は、主としてガソリンスタンド、カー用品店、スーパー等で小売りされ、昭和五四年三月ころには東京都内のガソリンスタンドでも販売されており、昭和五三年六月から同五四年三月までの販売数は、通信販売や展示即売会等での販売数を加えて約一五万本である、(4) 被上告人宮川商工は、昭和五三年九月ころ上告会社から原告製品を仕入れたことがあったが、その後上告会社に販売を断られたため、昭和五四年三月末ころ被告製品のうちの第二目録記載の自動車接地具の製造販売を始め、その後、同じく第三目録ないし第五目録記載の自動車接地具も製造販売している、との事実を確定したうえ、不正競争防止法一条一項一号の趣旨に鑑みれば、自己の商品表示が同号にいう周知の商品表示に当たると主張する甲が、これと同一又は類似(以下単に「類似」という。)の商品表示の使用等をする乙に対してその使用等の差止め及び右使用等による損害賠償(謝罪広告の掲載を含む。以下同じ。)を請求するには、甲の商品表示は、遅くとも乙の商品の販売開始より前に周知性を備えていることを要し、本件においては、被告製品の販売が開始された昭和五四年三月末ころまでに原告製品の形態自体及び原告商標が原告製品の商品表示として周知性を備えていることを要するところ、原告製品の形態自体及び原告商標は右時期には未だ周知性を備えていたとは認められないとして、上告人らの右各請求をすべて棄却すべきものとした。

しかしながら、右周知性を備えるべき時期についての原審の判断は、是認することができない。

自己の商品表示が不正競争防止法一条一項一号にいう周知の商品表示に当たると主張する甲が、これと類似の商品表示の使用等をする乙に対してその差止め等を請求するには、甲の商品表示は、不正競争行為と目される乙の行為が甲の請求との関係で問題になる時点、すなわち、差止請求については現在(事実審の口頭弁論終結時)、損害賠償の請求については乙が損害賠償請求の対象とされている類似の商品表示の使用等をした各時点において、周知性を備えていることを要し、かつ、これをもって足りるというべきである。けだし、同号の規定自体、原判決説示のように周知性具備の時期を限定しているわけではなく、周知の商品表示として保護するに足る事実状態が形成された以上、その時点から右周知の商品表示と類似の商品表示の使用等によって商品主体の混同を生じさせる行為を防止することが、周知の商品表示の主体に対する不正競争行為を禁止し、公正な競業秩序を維持するという同号の趣旨に合致するものであり、このように解しても、右周知の商品表示が周知性を備える前から善意にこれと類似の商品表示の使用等をしている者は、継続して当該表示の使用等をすることが許されるのであって(同法二条一項四号。いわゆる「旧来表示の善意使用」の抗弁)、その保護に十分であり、更には、損害賠償の請求については行為者の故意又は過失を要件としているのであって(同法一条ノ二)、不当な結果にはならないからである。

そして、甲の商品表示を使用した商品の販売、宣伝活動等、甲の商品表示が周知性を備えるに至ったことを基礎づける事実は、甲において具体的に主張立証すべきものであるところ、記録によれば、本件において、上告人らは、被上告人らが被告製品の製造販売を始めた昭和五四年三月末までの時点だけでなく、それ以降の時点において上告会社が株式会社双見商会、株式会社向島自動車用品製作所等に販売した原告製品の数量をも具体的に主張し、これを裏づける証拠も提出していることが明らかである。

したがって、原告製品の形態自体及び原告商標は、原判決の昭和五四年三月末ころの時点では周知性を備えるに至っていなかったとしても、審理の結果次第では前記のような被上告人らの行為が問題になるその後の時点においては周知性を備えるに至っていると認められる可能性があるから、右に説示したところと異なる見解に立って同法に基づく上告会社の各請求を棄却すべきものとした原判決には、同法の解釈適用を誤った違法があって、この違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであり、ひいて審理不尽、理由不備の違法があるといわなければならない。これと同旨の上告会社の論旨は、理由がある。

しかし、上告人高橋は、その主張自体から、自ら原告商標を使用して原告製品を販売する等の営業をしている者でないことが明らかであり、被上告人らの被告製品の製造販売及び被告商標の使用等により営業上の利益、信用を害されることはないというべきであるから、同法に基づく上告人高橋の各請求を棄却すべきものとした原審の判断は結論において是認することができ、同上告人の論旨は採用することができない。

しかして、上告会社の本訴請求に係る各損害賠償請求、昭和六一年(オ)第三一号事件の考案の実用新案登録出願についての出願公開に基づく補償金支払請求は、第一次請求ないし第三次請求として順次予備的に併合されており、これらをすべて棄却した原判決、原追加判決に対し上告があったところ、第一次請求たる不正競争防止法に基づく損害賠償請求について右のとおり破棄理由があるのであるから、第二次請求、第三次請求についても原判決、原追加判決を破棄すべきものである。したがって、以下、昭和六一年(オ)第三一号事件も含め、上告人高橋の関係においてのみ判断を加えることとする。

二その余の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

第二昭和六一年(オ)第三一号事件

上告代理人松井宣、同小川修、同沼波義郎、同半澤力の上告理由について

上告人高橋の第三次請求のうちの実用新案法一三条の三に基づく補償金支払請求は、上告人高橋は、原告製品に係る考案(以下「本件考案」という。)について実用新案権(昭和五三年五月二三日実用新案登録出願、昭和五四年一二月一日出願公開、昭和五六年六月一九日出願公告)を有するところ、被上告人らは、昭和五四年三月末ころから本件考案の技術的範囲に属する被告製品を製造販売しており、同年一二月一日に出願公開があった後も昭和五六年一月まで、出願公開がされた実用新案登録出願に係る考案であることを知って、被告製品を製造販売したから、同条所定の補償金の支払を請求する、というものである。

原追加判決は、本件考案の出願公開時の実用新案登録請求の範囲(以下「登録請求の範囲」という。)は、原追加判決添付の別紙(一)記載のとおりであるが、審査官から昭和五五年五月一四日付拒絶理由の通知を受けたため、上告人高橋は、同年七月一七日付で登録請求の範囲を同別紙(二)記載のとおり補正した、との事実を確定したうえ、補償金請求権発生要件の関係においては、出願公開の後に補正がされたときは、右補正の時点で新たに出願がされたものと解するのを相当とするとし、本件においては、右昭和五五年七月一七日付の補正後に、上告人高橋が被上告人らに対し同条所定の警告をし、あるいは被上告人らが同条にいう悪意の状態にあったことを認めるに足りる証拠はないとして、上告人高橋の同条に基づく補償金支払請求を棄却した。

しかしながら、原審の右判断は、是認することができない。

実用新案登録出願人が出願公開後に第三者に対して実用新案登録出願に係る考案の内容を記載した書面を提示して警告をするなどして、第三者が右出願公開がされた実用新案登録出願に係る考案の内容を知った後に、補正によって登録請求の範囲が補正された場合において、その補正が元の登録請求の範囲を拡張、変更するものであって、第三者の実施している物品が、補正前の登録請求の範囲の記載によれば考案の技術的範囲に属しなかったのに、補正後の登録請求の範囲の記載によれば考案の技術的範囲に属することとなったときは、出願人が第三者に対して実用新案法一三条の三に基づく補償金支払請求をするためには、右補正後に改めて出願人が第三者に対して同条所定の警告をするなどして、第三者が補正後の登録請求の範囲の内容を知ることを要するが、その補正が、願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において補正前の登録請求の範囲を減縮するものであって、第三者の実施している物品が補正の前後を通じて考案の技術的範囲に属するときは、右補正の後に再度の警告等により第三者が補正後の登録請求の範囲の内容を知ることを要しないと解するのが相当である。第三者に対して突然の補償金請求という不意打ちを与えることを防止するために右警告ないし悪意を要件とした同条の立法趣旨に照らせば、前者の場合のみ、改めて警告ないし悪意を要求すれば足りるのであって、後者の場合には改めて警告ないし悪意を要求しなくても、第三者に対して不意打ちを与えることにはならないからである。

本件についてこれをみると、出願公開時における本件考案の登録請求の範囲は、原追加判決挙示の甲第四四号証(本件考案の公開実用新案公報)によると、原追加判決添付の別紙(一)のままではなく、出願公開前の昭和五四年六月二九日付補正により補正されており、これと昭和五五年七月一七日付補正後の登録請求の範囲とを対比すれば、実質的な相違点は、自動車に帯電した静電気をアースするために自動車後部のフレームに取付金具によって吊り下げられる導電性ゴム製の帯体に反射板を取り付けた構成からなる自動車接地具に係る本件考案において、前者では、右帯体への反射板の取付方法に特段の限定がなかったが、後者では、右反射板が「取付位置調節、相対移動可能に」取り付けられていることを要件として付加したものであることにあり、換言すれば、右昭和五五年七月一七日付補正は、願書に最初に添附した明細書又は図面(原追加判決挙示の甲第一号証の三)に記載した事項の範囲内において、反射板が「取付位置調節、相対移動可能」であるものも、そうでないものも含む考案から、「取付位置調節、相対移動可能」であるものに限定したものとして、登録請求の範囲の減縮に当たると解される。そうであれば、反射板が帯体に「取付位置調節、相対移動可能に」取り付けられている被告製品は、補正の前後を通じて本件考案の技術的範囲に属することになるから(被告製品が、登録された本件考案の技術的範囲に属することは、原判決の判示するところであって、右判断は是認することができる。)、前記説示に照らし、出願人が同条所定の補償金の支払を請求するには、右補正の後に改めて被上告人らに対して警告をするなどして被上告人らにおいて補正後の登録請求の範囲の内容を知ることは要しないということになる。

なお、右警告ないし悪意の要件については、実用新案登録出願は、一年六か月経過後に例外を除き自動的に出願公開がされるものであるところ(同法一三条の二)、本件記録によれば、被上告人らは、昭和五四年五月七日に本件訴状とともに甲第一号証の一ないし五(本件考案の実用新案登録願、出願審査請求書、明細書、委任状、出願番号通知)の写しの送達を受けることにより、本件考案が出願されたこと及びその内容、出願番号等を知り、その後も、本件考案に類似する考案の出願の有無・内容等を調査し(乙第一号証ないし第三号証、第四号証の一・二、第五号証の一ないし七、第六号証)、本件考案の審査の過程を見守っていたこと(乙第七号証の一ないし七)が窺われ、更には、第一審の昭和五五年二月二〇日の口頭弁論期日における上告人高橋の本人尋問において、被上告人らの訴訟代理人の質問に対して、上告人高橋が本件考案はこの間公開されたばかりである旨答えており、これらのことに照らせば、出願公開の直後に、あるいは遅くとも右口頭弁論期日において、本件考案が出願公開された事実を被上告人らが知ったとの疑いが濃厚である。

したがって、出願公開に基づく上告人高橋の補償金支払請求を棄却した原追加判決は、その要件を定めた実用新案法一三条の三の解釈適用を誤った違法があって、この違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであり、ひいて審理不尽、理由不備の違法があるものといわなければならない。これと同旨に帰するものと解される上告人高橋の論旨は、理由がある(なお、上告会社は、その主張によっても、本件考案について独占的実施許諾を受けて昭和五三年六月から原告製品の製造販売をしているというだけであって、本件考案の出願人でないことが明らかであるから、他に特段の事情のない限り、同条所定の補償金支払請求を認める余地はない。)。

第三結論

以上のとおりであるから、昭和六一年(オ)第三〇号事件につき、昭和五九年三月一六日言渡しの原判決中上告会社敗訴部分を破棄し、特に、上告会社の不正競争防止法に基づく差止め及び損害賠償の各請求につき、前記第一の一に説示した各時点において原告製品の形態自体及び原告商標が周知性を備えるに至っていたかどうか(原告製品の形態については、右判断の前提として右形態が商品表示としての性質を備えるに至っていたかどうかを含む。)等について、更に審理を尽くさせるため原審に差し戻し、上告人高橋についてはその上告を棄却することとし、昭和六一年(オ)第三一号事件につき、昭和六〇年九月三〇日言渡しの原追加判決を破棄し、特に、上告人高橋の関係で、明細書の登録請求の範囲の補正と実用新案法一三条の三所定の警告ないし悪意との関係について前記第二に説示した見解のもとに、本件考案の出願公開後における悪意の存否につき更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻すこととする。

よって、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条の規定に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官伊藤正己 裁判官安岡滿彦 裁判官坂上壽夫 裁判官貞家克己)

上告代理人松井宣、同小川修、同沼波義郎、同半澤力の上告理由

一、原判決は、民事訴訟法第三九四条の法令の解釈を誤った違法があり、破棄を免れない。

原判決は、上告人らの第一次請求原因について、昭和五四年三月頃上告人らの製品の商品表示が周知性を有していたとは認められないとして排斥し、第一審判決の理由を引用するが、勿論失当である。しかし、仮りに右を肯定するとしても、何故上告人らの製品の商品表示が右時期までに周知性を有していることを必要とするとするのであろうか。第一審判決は不正競争防止法一条一項一号の趣旨を結局「正しく営業を営む者の業務上の信用の維持を図り、産業の発達に寄与しあわせて一般需要者の利益を保護することにあり」としながら、右周知性を有する時期を「被告(被上告人)製品が発表される以前でなければならない」と説示するが、同号の趣旨を右引用の如く解する以上、上告人らの製品の商品表示が周知性を具有するに至ったときは上告人の商品と混同を生ずる行為は将来に向って許容されないと解すべきである。蓋し、このように解さなければ、本件の如く他人の有望商品に注目し、これと同一若しくは類似の商品を製造、販売することを常に許容し、工業所有権の登録を受ける(その申請から登録まで三年乃至四年以上の時日を要することは裁判所に顕著な事実であると思われる)間隙を利用して不正の利得を収めることを防止できず、産業の発達を阻害し、商業道徳を低下させ、ひいては一般需要者の利益を害することになるからである。このように解しても同法一条ノ二により損害賠償等につき過失責任主義を採用していることから競業者に不測の損害を与えることにはならず、また日進月歩する技術の実態に即応するものと言わなければならない。

二、原判決には理由不備の違法があり、民事訴訟法第三九五条一項六号により破棄を免がれない。原判決は、上告人の第二次請求原因について、「『不法行為、債務不履行ないし信義則違反』と主張しているから、不法行為、債務不履行のほかに、損害賠償債務の発生原因として『信義則違反』が存すると主張するようである」とし、「不法行為、債務不履行とは別に、信義則違反が損害賠償債務の発生原因として存するわけではない」とするが、上告人らの原審における昭和五六年六月二二日付準備書面(二)は、

「二、……本件当事者は継続的取引関係にあったのであるから債務不履行乃至不法行為の成否が検討されるべきである。

三、まず、……従前何等の債権関係になかったというのであれば格別、被控訴人等の行為は信義則に反することは明らかであろう。

四、被控訴人等は、……控訴人に無断で、アースベルト類似の自動車接地具を製造販売しないとの黙示の約定に反するものであり、また、右約定の存在が認められないとしても前記のとおり信義則に反し違法な行為である。」

と記述しており、右を陳述したものであるから、原判決の誤解するように信義則違反を不法行為、債務不履行と別に損害賠償債務の発生原因と主張するものではないこと明らかであろう。

しかるに、原判決は右上告人らの主張につき単に「この点の主張も採用できない」と結論するのみで、上告人らが主張する被上告人らの上告人らとの「取引を通じアースベルトの製造販売に投資することに何等の経済的危険を伴わないことを確知し、模造品を製造、販売することは、信義則に反する」こととなるのか否か、また、右行為が上告人らに対する不法行為となるのか否か、或いは上告人らと被上告人らとの取引において債務不履行となるのか否かについて全く判断を示していないのは結局失当と言わなければならない。

上告人代理人松井宣、同小川修、同沼波義郎、同半澤力の上告理由

一、追加原判決には理由齟齬ないし判決に影響を及ぼすべき法令違反があるから民事訴訟法第三九五条一項六号および第三九四条の該当事由があり、破棄を免かれない。

実用新案法第五五条の二において準用する特許法第一七条の二によれば、特許出願人は特許出願の日から一年三月を経過した後、出願公告をすべき旨の決定の謄本送達前において次に掲げる場合に限り願書に添付した明細書又は図面について補正することが出来るとし、第三号において第五〇条の規定による通知を受け場合において第五〇条の規定により指定された期間内にするときとあり、右拒絶理由通知書は最初は昭和五五年五月一四日なされ、これに対し、同年七月一七日付で補正書がなされ、最終的には乙第七号証の四のとおり昭和五五年九月一二日拒絶理由通知がなされ、これが一〇月二八日出願人代理人に送達され、補正書を提出すべき期間内の同年一一月一六日に補正書が提出されたので、本件は右一七条の二、三号に該当する。

ところで、特許法第四一条によれば、出願公告をすべき旨の決定の謄本送達前に願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し、減少し、変更する補正は明細書の要旨を変更しないものとみなしており、本件はまさにこれに該当する。

これは昭和五九年三月一六日言渡された判決(以下原判決という)理由四、第三次請求についてとする部分の一八行目において、「……控訴人高橋のした補正は、控訴人ら主張(事実摘示第三)のとおり、当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内において実用新案登録請求の範囲を補正したもので、明細書の要旨を変更しない場合(実用新案法第九条、特許法第四一条)に該当すると認めるのが相当である」と判決している通りである。もし、明細書の要旨を変更したものとすれば、補正された時点において新たな出願がなされたものとされるわけであるが(特許法第四〇条、実用新案法第九条)、本件はそれに該当しないわけである。しかるに追加原判決は、理由二の一〇行目において、「……ところで、前記法条に基ずく補償金請求権発生要件の関係においては、出願公開後において補正がなされたときは補正された時点において新たに出願がなされたものとするを解するを相当とするところ……」と判断し、本件考案が補正により新たに出願がなされているものとしていることは、本件は要旨の変更をしていないとの原判決と抵触する。したがって、右の理由をもって補正後において上告人らが被上告人に前記法条をもって警告すべきであるとする追加原判決は明らかに理由齟齬があるから破棄を免かれない。同様に、出願公開後補正された場合も要旨の変更ある場合とない場合があり、ある場合にかぎって新たな出願がなされたものであるとすべきことは前述の通りであって、双方について新たな出願がなされたものとすべきでないことは明らかであるから、追加判決はこの点においても特許法第四一条、実用新案法第九条の解釈を誤り、追加判決後の変更はすべて新たな出願がなされたものとすることは判決に影響を及ぼすべき明らかな法令違背がある。

二、同様に、追加原判決は実用新案法第一三条の三の解釈を誤ったので、判決に影響を及ぼすべき明らかな法令違反があり、民事訴訟法第三九四条に該当するので、破棄を免かれない。

本件は、上告人の主張は第一次的に不正競争防止法違反により、また予備的に一般民法、信義則違反により、第三次的に実用新案法第一三条の三の補償金請求であるが、当初第一次的請求をなした場合にも、甲第一号証をもって本件考案につき実用新案登録をなしたことを明らかにした。これにより被上告人は当然本件請求の予備的あるいは三次的に実用新案登録あるいはそれ以前の公開ないし、公告により、被上告人らに本件考案類似の考案につき製造禁止ないし補償金請求がなされることは明らかであり、それゆえにこそ、被上告人らは高橋榮の実用新案登録に関する登録手続の一切を注目し、その手続において提出される手続補正書の諸書類を全部把握し、なおその上に類似の実用新案登録についてまで把握していたことは乙第一ないし乙第三号証を昭和五四年六月二〇日第一回口頭弁論で、さらに乙第四号証の一、二を昭和五四年九月二八日の第三回口頭弁論で、さらに乙第五号証、六号証を昭和五五年二月二〇日第六回口頭弁論において提出したことでも明らかである。

実用新案法第一三条の三の条文の根拠は、毎年特許庁へは無数の実用新案がなされているのであり、そのうち公開される件も数多いし、これをいちいち公報により確認することは事実上出来ないから、考案実施者に対し不意打ちをくわせることがないように考案者同志において書面により警告を出させるようにしたのである。

しかし、本件の場合はまさに訴訟当事者における裁判において、争点が特許庁の審査の対象となっていたのであるから被上告人としては当然その考案の審査の成行きを知り、または知りうべき状況にあり、また出願公開は法令により一年六ケ月を経過すれば必らずこれがなされるものとなっており(実用新案法第一三条の二)、かつ前述のとおり被上告人は注意をもって成行を見まもっていたのであるから、このように考案それ自体が裁判の争点となっており、相手方においてこれを知り、または知りうべき場合には相手方に不意打ちをくわせる虞れがないのであり、したがって、実用新案法第一三条の三の適用はなく、同条の警告は不要であるとすべきであり、原判決はかゝる訴訟当事者間に紛争があった場合においても警告が必要であるとしたのであるから法令の解釈の誤りがあり、その誤りが判決に影響を及ぼすべきものであるから破棄を免れない。

本件訴訟における訴状あるいは準備書面はいわば同条の警告以上の効果をもち、補償請求権の根拠となりうるのみならず、違法行為の差止めをも含むものであって、本件のような裁判上において争われている場合は警告書の提出は不要であるというべきである。ちなみに手形、小切手の場合、手形の呈示(手形法三八条)により付遅滞の効果が発生するとしているが、判例によれば裁判の場合は訴状の送達をもって足るとしているが如きは訴訟行為に特殊の効果を認めさせたのであり、本件の場合も訴訟行為には別段の効果を認めてよいものと解釈する。

三、仮りに右の主張が認められないとしても、追加原判決は実用新案登録法第一三条の三の「当該警告をしない場合においても、出願公開がされた実用新案登録出願に係る考案であることを知って出願公告前に業として、その考案を実施した者に対しても同様である」の中の「知って……その考案を実施した者……」との解釈について審理不尽の違法あるいは経験則違反ないし理由不備があり、これは民事訴訟法第三九四条ないし第三九五条一項六号の該当事由があり、破棄を免かれない。

前述の通り、乙第一号証から乙第六号証は昭和五四年六月二〇日から同五五年二月二〇日まで被上告人から提出されおり、これによれば被上告人らが類似の考案が登録申請されていたか否かについて詳細に出願記録を精査したことが明らかであり、さらに上告人からは昭和五四年六月二〇日第一回口頭弁論において甲第一号証の一として本件考案の登録願いがなされたことを、甲第一号証の五によってその出願番号が明らかにされていたのであり、また甲第二号証の一ないし三により意匠出願がなされ、これに対し甲第三五号証の提出により意匠が登録されたのであり、本件考案の審査過程に対して乙第七号証の一ないし七の拒絶理由書および手続補正書のとおり被上告人らが本件考案に対し、その審査過程を注意深く見まもっていたことが明らかなのであり、これらの書面が提出されておきながら、原判決は「……右補正後において上告人らが被上告人に対し前記法条に基づく警告を発した事実を認めるに足る証拠はなく、また被上告人らが右補正後、同法条所定のいわゆる悪意の状態にあったことを認めるに足る的確な証拠はない……」と判断し、右乙号証の提出に対し何らの検討を下していないのは明らかに審理を十分になしたものとはいいがたく、民事訴訟法第三九四条違反があり、かつ右の如くいわゆる悪意の状況にあったことを一応認定出来る書証が提出されているのに、その事実がないと認定するには、その書証を排斥する合理的な理由がなければならず、これをしなければ理由不備とするのは従前からの判例の立場であり(最高裁昭和三二・一〇・三一民集一一巻一七七九頁外)、本判決は明らかに右判例に抵触する。

仮りに右の主張が認められないとしても、前記の如くいわゆる悪意の状況にあったとを認定するに足りた証拠がありながら、これを無視してなした判断は経験則上の判断の違法があり、同様にこれは民事訴訟法第三九四条の該当事由があり、原判決は破棄を免かれない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例